《MUMEI》
7本の薔薇
柊が豹変して以来、俺は常に警戒心を解かなかった。
けれど、そうさせた当の本人はいつもと変わらずに学校生活を送っているし、普段通りに話掛けてくることもある。

まるで、あの時のことがなかったことかのように…
一体、あれは何だったんだ…?



そんな事を考えていたせいで、俺は暫くボーッとしていたらしく、母さんに声を掛けられているのにも気付かなかった。



「……夜、黎夜…黎夜!!」

「うぉ!ビックリした〜。耳元で大きな声出すなよ」

「あんたがいくら呼んでも返事しないからでしょ?学校、遅刻するわよ」

「あぁ、ごめん。行ってくる」

「いってらっしゃい」



母さんに見送られて玄関を出ようとした時、タッタッタという小さな足音が聞こえてきた。



「お兄ちゃん、待って!」



声のした方を振り向くと、美雪が俺のところまで走り寄ってきていた。そして、傍まで来るとニコニコしながら
俺を見上げている。何かを後ろに隠し持っているようだ。
俺はしゃがんで目線を合わせてから、美雪の頭を撫でた。




「美雪、どうした?」

「あのねっ、さっきパパに頼まれて新聞取りに行ったらこれが置いてあったの!!綺麗だからお兄ちゃんにあげるね!」



そう言って美雪が差し出してきたのは、真っ赤な一輪の薔薇だった。

そんな、まさか…



「……嘘…だろ?」

「お兄ちゃん?どうしたの?お花、嬉しくないの?」



何も知らない美雪は、きょとんとした顔で俺を見上げてくる。
…駄目だ。絶対に、絶対にばれないようにしなきゃ。
俺はできる限り笑顔で「え?…あ、あぁ、嬉しいよ。ありがとな」とお礼を言った。美雪は「どういたしまして!」と言ってニコニコしている。

その姿に自然と笑みがこぼれながらも、一番気になっていることを聞いてみた。



「…美雪、そのお花はもう母さんや父さんに見せたのか?」

「ううん、まだお兄ちゃんにしか見せてないよ」

「そっか。そうしたらさ、お兄ちゃんにお花、全部くれないかな?」

「え〜、何で〜?」




美雪は頬を膨らまして抗議する。何でと言われると困るが、必死に頭を働かせ、苦しいが言い訳を思いついた。



「それは…、お兄ちゃんがお友達に届けてって頼んだお花だからだよ。だから頂戴?」

「う〜ん…、分かった。お兄ちゃんに全部あげる」

「ありがとう。それから、これは皆に内緒だぞ?」

「どうして?」

「このお花は、母さん達に後であげて驚かせるからだよ。だから、内緒に出来るな?」

「うん!」

「よしっ、約束だ。それじゃ、学校に行ってくるな」

「うん、いってらっしゃい!!」



俺は、家を出てから薔薇を通学路にある野原に置いていった。

薔薇は、全部で7本。

俺の死ぬ日は……




1週間後のX'masの日だった。

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