《MUMEI》
・・・・
 片頬を上げ、不敵な笑みを作りカイルは壁に寄り掛かった。礼儀作法を弁えない彼は、人に話をしてもらうと言う状況にあろうとそれは健在のようだ。
 「それじゃあ、言った通り『乙女の嘆き(スウェール・セレム)』について話してもらおうか。嘘偽りなく、お前が見たままの事実をだ」
 「わかっておる、ありのままを話そう」

 現在の民衆が呼ぶ『乙女の嘆き(スウェール・セレム)』の発端はたったひとりの女性が病に倒れたことだった。女性の名はヒルデ、知っての通りこの国の王妃だ。
 ユリウス王は国中から名立たる医師を招集しヒルデ王妃を診察させた。しかし、如何なる医師に診せようと病の原因はわからず仕舞い、治療法も見つかることはなかった。
 老いようとあの時の記憶は鮮明に残っている。思い出すだけでも胸が痛むようだ。あの可憐なヒルデ王妃が日に日に痩せ細ってゆく姿、見るに耐えなかった。
 八方ふさがり。ユリウス王も術をなくし、衰弱してゆく愛する妻を見守ることしかできず、とうとう冬を迎えてしまった。

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