《MUMEI》

「じろー、見てみろあれ!さんかいてん!」

七生も、気を抜くと俺について行こうとする。


「俺、そういうの苦手だから、瞳子さんとどうぞ。」

今日はこれで貫き通す。


「私も苦手です……」

あれ?
流石、お嬢様……。


「七生は修平さんと乗りなよ……」

ま、まあ親子のコミュニケーションの場にはなったからいいか……。
七生と修平さんはノリが似ていて、大喜びで三回、夜空を回転した。
ジェットコースターの近くの柱で瞳子さんと七生達の帰りを待つ。


「二郎さん……この間はごめんなさいね、私ったら、二郎さんに頼ってばかりで甘えてました。私、自分で七生さんに近付くことの方が、過去の七生さんを知ることより大切だって思ったんです。」

瞳子さんが以前より、更に魅力的に映る。


「瞳子さんって綺麗ですね。俺の知ってる女性の中で一番、大和撫子って言葉が似合う。」


「……二郎さんも綺麗ですよ?」

ん?褒められたのか……?


「あっ、ごめんなさい、男性にはあまり嬉しくない言葉でしたか?」

慌てて訂正してくれる。


「俺も語弊がありましたね……瞳子さんは恋してて、凄く魅力的な女性に輝いてます。本当に……羨ましい……――――――――え?」

自分で、口にした言葉に動揺した。


「桜介君に叩かれたんです。男性から手を挙げられたのは初めてでびっくりしました。でも、桜介君の手の平でしか分からないこと、言葉以外のものを少し理解出来たみたいです。」

勝ち目の無い戦だ……
瞳子さん、いいな、俺も……七生と向かい合って話したい。
俺、瞳子さんの前だと凄く嫌なやつになってる。
卑屈で、臆病で、嫉妬の塊みたいな……本当は、心から七生の幸せを優先したいのに。


「……私、七生さんに告白します。」

ジェットコースターが、スローモーションで回転する。
音は静かで、瞳子さんの品の良い声がよく通った。

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