《MUMEI》





斎場は名古屋市内というだけあって、タクシーに乗り込んでから30分経ってもまだ付く気配はなかった。
裕斗は俯きながら両手の指先を絡め、何かを考えている様子だった。


「裕斗…」


「ん…」

先に沈黙を破ったのは俺。


「平山さんに聞いた」

「…」


「土下座までしたんだってな」


「……」


あと、他にも、全部聞いた。隆志が支えるから惇の事倒れさせてくれとか色々無茶苦茶な事を言った事を。



正直、嬉しかった。だけどそれは裕斗には言わない。


「…もうここからは俺に任せろ。

お前は…、お前だって傍にいてやらなきゃいけない大切な人がいる。
今日遅くなっても必ず会いに行け
…絶対心配している。お前に会いたくて仕方がない筈だ」


「…」

「……」


「…ゥッ…、…」





静かに、静かに、

裕斗は泣きだした。




ごめん、ごめんって小さな声で何度も繰り返す。











本当は








「あいつが望んだ事お前はしてくれただけ…わかってる…

遊びでした訳でもなかった…


あいつの事大切だからしちまった事は…分かってる。

もういいから…


お前の…その想いに遥かに負けない勢いで俺はあいつを愛していく

もう迷わせない様にしっかりと掴んでいく…


俺はあいつを



幸せにする」







葬儀場に付きタクシーから降りた途端俺達は報道陣に囲まれた。


惇と同じ事務所で仲が良いと世間的に公認な俺達は、一斉にフラッシュを浴びながら質問責めにあった。


とくに裕斗は、裕斗の運転で病院に惇を運んで来たのをバッチリマスコミに見つかっていて、しかも惇の入院先に泊まりがけで入り浸っていた事を、見かけた一般人にばらされてしまった為に余計絡まれた。

俺は何故か惇の病院に行っていた事はマスコミにばれていないみたいだ。


まあわざわざ言う事でもないから俺は当たり障りがない様に、神妙な面持ちで受け答えする。


裕斗もまた、芸能人らしく、成人した大人らしく、誠実に…

しかし言わなくて良い事は一切言わずに上手く受け答えした。







葬儀場に入るとたくさんの人でごった返していたが、葬儀屋職員が俺達を見つけるや否や、ロビーからかなり離れた別室に誘導した。


そして職員はこの中に…と言い、立ち去った。






靴を脱いで襖を開けると、フォーマルに身を包んだ惇が一人、



窓から下を見下ろしていて、そしてゆっくりと俺達の方を向いた。






それは、しっかりとした、力強い眼差しだった。

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