《MUMEI》
ファーストキス
劇も終盤に入り


(女装もこれで最後だな)


俺は今、赤ずきんのおばあちゃんの若い頃のお気に入りだった


フリフリのエプロンドレスに早着替え中だった。


「可愛い、祐也」


着替えと言っても狼衣装の上に着るだけなので、引き続き壱子ちゃんは俺の隣にいた。


「ありがと」

「…」


一応礼を言うと、壱子ちゃんがスカートの裾を引っ張ってきた。


「ん?」

「ちょっとかがんで」

「…?」


言われるままにかがむと


フニッ





ものすごく柔らかい感触が、左の


壱子ちゃん側の頬から、伝わってきた。


それは一瞬だけだったから


周りはほとんど気付いていなかった。


「い、今の…」

「元気がでる、おまじない」

「元気?」

「…」


未だに目を丸くしている俺を見ながら、壱子ちゃんは頷き


「ママ以外に、男の人に、…ちゅーしたの、初めて、…だよ」


小さく、俺の耳元で囁いた。


(俺も、女の子からは初めて…なんだけどな…)


期待させてしまいそうだから、俺は黙って頷いた。


「だから、元気出して、最後まで頑張ってね」


俺はもう一度頷き、ステージに向かった。

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