《MUMEI》 「……サキ。お願、い。止めさせて……」 微かに呟く声少女の口から発せられたソレ だが、その言葉はまるで別人のソレの様で 訝しむばかりのサキへ、だが少女はすぐ様正気に戻っていた 「傍に居たいの。もうすぐあの子も眼が覚めるし。だから……」 意味を解せない事を一人言に呟き始めた少女 瞬間サキの前から鵜方を消し、そしてコウの背後へ 直後、下から湧いて現れた大量の手に全身を捕らえられていた 「コウ!?」 サキの怒鳴る声に少女は向いて直ると、サキの方へも手を差し向ける 素早い動きにかわす事が出来ず、身動きが取れなくなってしまっていた 「……そこで、見てて。すぐ済むから」 満面の笑みを浮かべ、少女はコウの前へ 「……やっと手に入るんだ、私の身体。ずっと待ってたの。誰かと触れあえる身体を……」 「お前、一体何言って……」 うわ言ばかりを唯呟く少女へ 訳が分かる筈もなくコウが問う事をするだが返答はなく 「バイバイ。お兄ちゃん」 無邪気すぎる笑みを向けられ、そして衣服越しに皮膚を切り裂く音が直後 短い悲鳴を上げ床へと崩れ落ちるコウの身体 無残にも切り裂かれた内腿は痛々しく赤い肉が覗き 其処から大量の血液が流れだす 「安心、してね。私がずっとオジさんの傍に居てあげる。お兄ちゃんになって、ずっと居てあげるから……」 楽し気に笑いながら、剥いだ皮膚をまるでゴミの様に床へと放り出す 小刻みに痙攣を起こし、引き攣った様な声を喉の奥から出すばかりのコウへ 少女は唇を重ね、朧げだったその姿がコウの身体と重なった その姿が全て消え、漸くコウの震えも治まる 「……愛され過ぎてるね、この身体。オジさんにすごく愛されてる。身体の中にオジさんを感じるよ」 コウの声。だが、口調はあの少女で 最悪な事実がすぐ目の前に無情にも突き付けられた 「大丈夫だよ、オジさん。あと、もう少しだから」 楽し気に笑う声をあげながら踵を返し、その場を後にする少女 その背に銃口を、だが大切な人物のそれ故に傷つける事など出来ずに 唯睨みつけるしか出来ない自身に腹ばかり立った 奪われて、失って 十年前と何一つ変わらない 「ぶ、無様だな。サキ・ヴァレンティ」 少女の姿が消えた静けさしかない部屋に 引き攣った様なラングの声が耳障りに響いた ゆっくりと顔を上げ、何の感情もない視線をサキは向ける 「あ、あの小僧はあの少女の器になった。せっかく作った人形、残念だっ……」 ラングの言葉になど耳を貸す事もせず サキは僅かに右手を持ち上げると指を鳴らした 印が改めて発光を始め、瞬間消えていく ソレと同時にマリアが落着きを取り戻し ラングの腕の中で穏やかな寝息を立て始める ソレを見届けると、サキは何を言う事もせずその場を後にしたのだった…… 前へ |次へ |
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