《MUMEI》
劇に集中
(結構、鋭いな…)


赤ずきんのおばあさん役の部員とやりとりしながら、俺は壱子ちゃんの事を考えていた。


『元気出して』


確かに俺は


客席にいない柊と希先輩をずっと気にしていて


密かに、落ち込んでいた。


(確認できたの、さっきまでだし)


おばあさん役の部員は、『三狼の服を洗濯に、川に行ってくる』と出て行ったが


一人残されたエプロンドレスの俺は、これからラストまでずっとステージでやりとりがあるのだ。


(ここでミスしたら、今までの苦労が無駄になるし)


俺は、今だけは


柊と、希先輩


それから、途中で消えた志貴


…そして


学校に来ているかもわからない忍の事は考えない事にした。


ちなみに


葛西先輩は、仕事


祐は、バイトの為、元々今日は来れないとわかっていたし


鏡月と緑川は、運悪く二人共当番の時間と劇の時間が重なってしまい、来る事はできなかった。


そうして俺は、赤ずきん役のエイミーと、『赤ずきん』の中の、有名な場面を、少し変えたやりとりを開始した。


…異母妹だとわかってから、まともに目を見て話したのは、これが初めてだった。

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