《MUMEI》
不安と恐怖
漸く柊から解放され、教室に入ると皆の視線が一斉に俺に注がれる。

……え、何?

わらわらと集まってくるクラスメイト達。何がどうなってんの?
俺が茫然としていると、一人の女子が興奮気味に口を開いた。




「ねぇねぇ、黎夜君!家に薔薇が置かれたって本当なの!?」

「…え?」

「ちょっ、ストレートに聞きすぎだよ」

「だって、皆聞きたがってたじゃない!」

「黎夜、何本の薔薇が置かれてたんだ?大丈夫なのか?」





何で知られてる…?

好奇の眼差しが注がれる中、俺の思考は一時停止したが、直ぐに巧く誤魔化す方法を考えようと思考を巡らせた。取り敢えず、その場しのぎができれば問題ない。




「な…、何言ってんだよ皆。冗談キツいって!薔薇なんかねぇよ」

「へ?じゃあ、そんな噂が?」

「あれだろ。'次は月代 黎夜の番'とかいう話からそういう噂に発展したんだよ」

「なぁ〜んだ。嘘だったのか。いや〜、安心したな」

「だね!ホントに良かった!!」

「ったく、俺を勝手に死亡確定者にすんなよなぁ」





……俺は、無理して笑った。

本当は不安と恐怖で張り裂けそうだけど、皆の前では笑い続けた。

誰にも知られないために。
他の人を巻き込まないために。


もう誰かが傷ついたり死ぬ姿なんて見たくない。


もちろん、俺だって絶対に死なないと決意している。…けれど実際は、近付いてくる死神を黙って待っていることしかできなかった…。

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