《MUMEI》 樹が最初に斎藤アラタを見たのも屋上だ。 アラタと遭遇した日は神が夕日から零れ落ちたような奇跡だった。多少の大袈裟な表現も許容したくなる程、樹には衝撃的であった。 神を具現化した姿形。 そしてその神は双子の片割れを殺した人間の息子であり、片割れの名を名乗る人格を持つ男を殺そうとしている。 何も間違いはない 完璧な真理だ。 樹は頭の中で拍手喝采した。 学校の中へ音も無くアラタは消えた。 樹は躯に滑る微かな冷気を受けた。 心地よいとさえ感じる。 眩しい青 網膜が記憶するような空の輝きを見た。 樹はいつの間にか地面に眠っている。 体が綺麗になっていく錯覚さえする。 「浄化しそう」 樹から独り言が漏れた。 ふと彼が服を脱いでいた理由を分かった気がした。 アラタもこの空を見ていた。 同じ空を樹も見ている。 こんなにも近い空なのに 手を伸ばすとこんなにも 遠い 前へ |次へ |
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