《MUMEI》
・・・・
 『術者は王都のどこかより王妃様に呪いをかけており、星には十代から二十代のうら若き乙女とでておりました』
 ユリウス王はヒルデ王妃を愛していた。それゆえに、どれほどの代償を払うことにも躊躇はなかった。

 「貴様らならもうわかるだろう。ユリウス王はただひとりの人間を救うために数百の人間の命を奪ったのだ」
 昔話はここまでにして、遠い目をしていたツヴィは二人を見やった。
 「史実なんて当てにならないってわけか」
 国に忠義を尽くしてきたエドは寂しそうに呟く。王であろうともとは一人の人間なのだ、弱さは誰にでもある。わかっていたことだが、それでも残念なことに変わりなかった。
 「国王は優先すべきものを見誤ったのか、ユリウスに王たる資格はなかったようだな」
 都合の良いように事実を捻じ曲げ、捏造する国家を統べる男に呆れ、カイルが嘲笑った。
 国の支配者は、全国民の声であり、耳であり、手であり頭であらなくてはならない。つまりは国家、民にその身を捧げ、繁栄と平穏を与えることが支配者たる国王の使命だろう。だが、ユリウス王がどう言い逃れしたところで、私利私欲のために権力を使い個人的な願いを叶えたことは事実。
 「そう、これが真実だ。誰もユリウス王を止める事はできなかった。ワシ自身、同じ場面に立たされればユリウス王のようにしたかも知れん」

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