《MUMEI》

「克哉さんは分かりませんか?」
「私は目が悪いんで、暗いからさっぱり見えないんだ」
「それ伊達眼鏡じゃなかったんですね」

そんな風に、思われていたのか…。

「あっちはどうだ?」

アキラの手を握ると、もうちょっと近くにあった植え込みに彼を連れていった。

その手は緊張しているのかそれとも心配しているのか冷たくなっていて、握るとギュッと力強く握り返してきた。


暗がりで見えないと言っても、少々肌けた浴衣の裾からはみ出した白い足と金色の髪。

それに、いつまで経っても声変わりのしないあの高めな声は、やっぱりどう見てもかなただった。

「…やっぱりかなた君だ…彼氏の方はさっきの武君じゃないですよね」

俺が言うより先にアキラも気付いたらしく、俺が動くより先にかなたの事を一番心配していたアキラが飛び出して行ってしまった。

「ちょっとキミ!!」

そのアキラの声を聞いて驚いた二人の間にアキラは割り込んで行くと、まるで子供を守る親のごとく、かなたを守るように前に立ちふさがった。

「ぼ…僕の兄弟に何してるんだよ!」

兄弟…と、アキラはかなたの事をそう言ってくれた。

私の弟であり、これから彼にとっても弟になる子だと…彼はそう思って言ってくれたんだろう。

「何…って、僕はかなた君の浴衣を直していたんですよ」

確かに、その優男の言うように俺達が見に行った時はかなたの浴衣の裾を直している最中のように見えたが…。

「…そうなの?」
「う……ぅんι」

かなたはなんとなく歯切れの悪い返事をしながら、元気なくアキラの胸に顔を埋めていた。

「分かった…行こうか」

この男に何か言ってやりたかったが、ココにずっと居るのはかなたにとってもあまり良くないだろう。

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