《MUMEI》
二章:四
端から見れば少々痛々しかったが、源五郎の精神はそんなことに構うような構造ではないらしく、年季の入ったボロい戸を余計に口汚く貶し罵り出した。
 其を止めたのは、中からの声だった。
「ゴロさん、煩いよ」
寝起きなのか、ふやけてはっきりしない発音で、その声は告げた。
声色は茅のものだ。
そして、源五郎が躍起になっても開かなかった戸が一瞬にして目の前から消えた。
茅が中から開けたようだ。
寝癖のついた髪を撫で付けている茅と目が合う。
「起こしたか?」
少しだけ申し訳なく思い問い掛ける。
「ああ。仕事、終わったんだろ? 問題はないよ」
「なら良いがな。……あのちっこいのは?」
源五郎の問い掛けに双眸を眇め、首を左右に微動させる茅を視界に収めると、源五郎は気になっていたことを口にした。
「まだ寝ている。疲れたんだろうな」
「何があったか話してくれんだろ? や、その前に飯か、飯だな! 俺は腹減った」
家の奥、源五郎が何時も寝起きしている部屋に視線を送り、茅は踵を返した。
源五郎も茅の後に続き屋内へ入った。
そして、豪快に宣言し竈に近付いて行く。

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