《MUMEI》 ・・・・異変とは屋敷全体に施された敵の術式のことだった。空間は遮断され、逃げ場を失った。 外の世界と切り離され、追い詰めたはずの二人は逆に追い詰められた形になった。辺りには徐々に黒い濃霧が発生していき、見る見るうちに四人の視界を削り、完全に封じこんだ。 老いてしまい、満足に動かすことができなくなった足を労わりながら後退しようとするツヴィをその身で庇い、モーリスは何とか手探りで窓から一番離れた扉の前まで辿り着くことができた。 「ま、まかせましたよ」 「わかってるよ、俺たちで何とかする」 騎士たちは目の前も見えない暗闇のなかにいると言うのに焦った様子はない。むしろこの状況を楽しむかのようにエドは口元を綻ばせている。 いつ敵が襲撃してくるのか。結界魔法もしくは結界魔術にはめられはしたものの、まだ敵の気配は塀の外にある。まだ小手調べという段階なのだろう。 視覚に頼れないいま、頼れるのは聴覚と培ってきた勘しかない。 そのとき、敵からの第二波が仕掛けられた。 さまざまな女たちの悲痛な叫びが聞こえてくる。それは木霊していて、ここから聞こえてくるものではなく、あちらから聞こえてくるものだった。 ――死にたくない、死にたくない。だって私まだ・・・・生きていたいもの。 ――きゃー。いや、いや、彼に会わせて、彼ならきっとあたしを助けてくれる。 「これも仮面の男がやってるのか、だとしたら嫌な性格してやがる」 前へ |次へ |
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