《MUMEI》

仁湖は、そう言うと俺を部屋から追い出した。

「ったくなんなんだよ……仁湖の奴……」

不貞腐れながらも、二階にある俺の部屋からリビングに向かうため、階段を降り始めた。

……8……9……12……ラスト……。

降り慣れた階段の段数を、無駄な事だな。とは思いつつ、俺はそれを数えながら降りた。

ガチャッ………

リビングの扉を開け、中に入る。

そこで見たものは、テーブルに所狭しと並べられた料理と、それをつまみ食いする、俺の兄の姿だった。

「よぉ。お前起きんのおせーぞ。志遠」

ゴクン。
と口に入っていた料理を喉の奥へと流し込むと兄、想(そう)はニカッと歯を見せて笑った。

俺と兄貴は4つ差。
つまり、兄貴は24歳というわけだ。

「これで今日からお前も酒飲めんじゃん。」

これは兄貴からの俺へ対する誕生日の祝いの言葉。
もっとマシなのはなかったのかと疑問に思わないでもないが、ここはありがたく頂いておく事にしよう。

「そうだな。まぁ飲まねぇけど。長生きしてぇし。」

兄貴は一瞬驚いた顔をしたが、そうか、と満足気に頷くと俺の方に近付いてきて、肩を抱いてきた。

「おら、お前も食えよ。あ、仁湖には内緒だぞ。食うなって言われてるし。」

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