《MUMEI》

悪戯っぽく笑う兄貴を見ていると、こいつは内緒って意味を分かって使っているのだろうか。
と今日、2つ目の疑問が湧いてくる。

あんなに堂々とつまみ食いをしていれば、内緒にする以前に即バレるだろうに。

俺が呆れていると、俺の後ろにあった扉が開いた。

それと同時に、殺気に似た怒気を感じた。

「想兄……」

声が発せられた瞬間、兄貴の肩がビクッと上下に揺れる。

「私、言わなかったっけ。つまみ食いしないでね、って。皆で一緒に食べようね、って。」

その抑揚のない、仁湖の平たく冷たい声が、罪の無い、俺の背筋までも凍らせていく。

「ち……ちょっと待て、落ち着けよ、な?に……仁湖……」

この家で、一番権力を持つのは、海外にいる両親でもなく、長男の兄貴でもなく、次男の俺でもない、末っ子の仁湖なのだ。

「想兄のばかぁあっ!!!!」

仁湖は叫ぶと、バタンッと扉を勢い良く閉め、廊下を不機嫌そうに歩いて行った。

仁湖が幼い頃から両親は既に海外にいて、仁湖は随分寂しい思いをしてきた。

授業参観も運動会も、両親は仕事のために来られずに、兄貴が学校を休んだりしながら行っていた。

そのためか、仁湖は“家族団欒”というものに酷く執着している。

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