《MUMEI》

克哉さんが着ているのは夏らしく涼しそうな白っぽいグレーのジャケットで、襟元にはネクタイではなく正式な言い方は分からないけど青いスカーフのようなものをしていた。

よく見るようなネクタイじゃないから、ちょっとだけラフなカンジに見える。

それに涼しそうな色だし、どうしたらこんなふうに格好良いスーツとか着こなせるようになれるんだろ…。

そう言えば、克哉さんのお父さんはアパレル系の会社を経営しているって言ってたっけ。

だからなのかな、詳しい事はよく分からないけど”綺麗なものを見れば綺麗になっていくんだよ”って、母さんが言ってた事を思い出した。


「コレはどうだ?…うん、可愛いな」

克哉さんはそう言いながら僕だけでは思いつかないような色のスーツや小物を持ってきて、さらに色々なネクタイをあてたりして僕の姿を眺めていた。

(幅が一定で細くてリボンのようなネクタイなんて初めて見たよ…)

そうやってぼんやり持ってきて貰ったものを眺めていると、お店の人が僕の首にメジャーをあててきた。

首周りを計っているんだろうけど、冷たいその感触に思わず声が出て店の人に『すみません』と言わせてしまった。

「感じやすいんだな♪」
「何言ってるんですか///」

首をさすりながら店員さんが向こうに行ったのを確認し、変な事を言ってくる克哉さんの手を受け入れたりたまに往なしたりしていた。

鏡に映っていた自分を見るとシャツに細身のネクタイ、タックの入った茶色のジャケット。

しきりと克哉さんが腰の辺りを触っていたのが気になったけど色も明るくてシルエットが綺麗で、鏡に映っているのは自分の筈なのに結構格好良くなっていてじっくりと見入ってしまっていた。

「この裾をもう少し調節してくれ」

いつも通りズボンの裾を短くするように克哉さんが店員さんに言っているのを聞いて、やっぱり…と、少し恥ずかしくなった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫