《MUMEI》

俺が疑問を抱いていることを察したのか、ラングは息を整えた後に話し掛けてきた。
「何故闇を、といった顔をしているな。」
その疑問に対する彼の答えは、俺にとっては常軌を逸していた。それでいて当然の様に話すものだから驚く他ない。
「俺、いや俺たちにとって同族殺しは禁忌。貴様等と同じだと考えると虫酸が走るが、それでも俺が人間だという事実は変わらない。」
信じられない。そんな下らない理由で、仲間を殺し、また仲間を殺しに来るかも分からない相手を生かすというのか。合理的にも感情的にも俺は殺すべき。それをしないなどと…………竜とは、思っていた以上に下らない種族だ。
「ラン、グ……」
思考はハッキリしているものの、やはり喋るとなると上手くいかない。それでも伝えることは伝えねば。
「俺の、名は…………カイム・エクサリア…………覚えて……おけ……お前を、殺す者の、名だ……!」
言い切ると、ペンダントとして身に付けていた緊急用のワープストーンを砕いて転移した。なかなか貴重な物だからあまり使うな、と主に言われていた為に心苦しいが、今はこれに頼らねばならない。
ラング・ファフニール。
凄まじい男だった。彼のことは主に報告せねば。それに、俺は彼に興味が湧いた。主以外はどうでもいい筈の俺が、何かに興味を持つなど有り得ないことだった。また、生きて万全の状態で相対したい。その為にも今は撤退する。撤退して、力を蓄える。今度は負けない。負けるものか。
ラング・ファフニール。
俺を熱くさせる男よ。また、会おう。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫