《MUMEI》
Ich will mit Ihnen sein.私はあなたと共に
  
いつもと同じように、バイトの終わりに克哉さんが迎えに来てくれていた。

だけど…なんとなくいつもと克哉さんの雰囲気が違うような気がした。

「アキラ、行こうか」
「はい♪」

いつも後ろにまとめて額を出していた髪を下ろしているから…それともちょっとラフな格好をしているからだろうか…。

着ているものとか髪型じゃなくて、何かこう気持ちの変化のような…上手く言えないけどそんなカンジだった。

「どうした?」
「えっ…何でもありません///」

肩越しに見た克哉さんの顔が若干微笑んでいるように見えたから…。

いつも普通にしていても眉間に力が入っているような顔なのに…。

今日は何かいい事でもあったのかな。

そんな嬉しそうな克哉さんを見ていると、こっちまで嬉しくなってきてしまった。




「こんなに近かったのか…」
「乗り換え無しでしたね」

意外と簡単に着いてしまった浅草は、僕のバイト先も店じまいしている時間帯なので、もう周りの商店もシャッターが下りていて、開いているのは雰囲気のある立ち飲み屋ぐらいだった。

「ドコ行くんですか?僕この辺知らないんで何も出来ませんけど…」
「いいんだ、見せたいものがある」

周りには家路につく人や、すでに出来上がったおじさん達が賑やかに騒いでいた。

「わっ…」

ちょっと人にぶつかりそうになって避けようとしたら、いきなり克哉さんの手が僕の手をギュッと握って引き寄せてくれた。

「ぁっ///」

克哉さんの大きくて力強い手が僕の手を握ってくれてる。

ドキドキしながらも僕は周りの目を気にしてしまっていた…。

だけど、そんなに人も居なかったし、居たとしても皆は家路を急いでいて、街頭の灯りも僕達が隠れるくらいほんのり暗かったので、恥ずかしかったけどそっと僕も手を握り返した。

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