《MUMEI》 . その顔をしばらく見つめて、瞬く。 「わたし、持ってるよ」 かばんの中をあさり、折りたたみ傘を取り出した。 彼はゆっくり振り返り、顔をしかめる。 「ずりーな。ひとりだけ」 悔しそうにぼやく彼に、わたしは勝ち誇ったように笑う。 「『備えあればなんとやら』、ってヤツですよ」 蒲生くんは、わたしの台詞に面白くなさそうな顔をしたが、再び空を見上げて、「ま、いいや!」とさっぱりした声で言う。 「走って帰るか……」 そう呟いた彼の顔を見つめて、 わたしは言った。 「入ってく?」 蒲生くんは、驚いたように振り返る。 わたしは彼の顔を正面から見つめて、 つづけた。 「今日、手伝ってくれたお礼。送ってあげるよ。家、どこ?」 蒲生くんは、一度瞬き、 それから満面の笑顔を浮かべた。 . 前へ |次へ |
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