《MUMEI》
心配
何も出来ない日々が静かに過ぎてゆく。


あっという間に残りは
あと2日に迫っていた。
こういう時に限って、日が経つのを早く感じるんだよな…。


俺は皆の前で笑うことに疲れ、一人部屋に籠っていた。
今が冬休みでよかった…。

ベッドの上でそんなことを考えながらうとうとしていると、部屋のドアをノックされた。続けて聞こえてきたのは、沈んだような直哉の声だった。




「兄貴、入っていいか?」

「直哉?どうした?」




俺の返事の直後にドアが開かれ、直哉が入ってきた。しかし、俺の目の前の前に俯いて立つだけで、何も話そうとしない。心配になって声をかけてみると、「兄貴…」とだけ呟いた。そして、それと同時にポタポタと透明の雫が絨毯に染みを作っていった。
…泣いて、る?




「…っ」

「な、直哉!?どうした?何で泣いてんだ?」

「だ、だって…兄貴…
薔薇……置かれて…っ」



直哉の口から放たれた言葉に、俺は絶句した。
知られてたのか…

でも、今ならまだ間に合うかも知れないと思い、俺は必死に誤魔化した。



「ば、薔薇?何の事だよ?」

「惚けんなよ。知ってんだぞ。…毎朝、早くにこそこそ薔薇を…取りに行ってんの」

「………」

「なぁ、兄貴も…し、
死んじゃうのか?」

「直哉…」




直哉はただひたすら泣き続けた。俺の心配をして…。そんな直哉の頭を撫でながら、俺は謝ることと大丈夫だと言ってやることしかできなかった。




「悪い、心配かけたな。でも、俺は大丈夫だから」

「大丈夫じゃないだろ!!」

「大丈夫だって。…薔薇の事、母さん達は知ってんのか?」

「ううん。た…たぶん知らない」



直哉のその言葉に、俺はほっと息をついた。心配性な母さんのことだ。知られてしまったら、ショックで倒れるかもしれない。




「…直哉。これからも、薔薇のことは誰にも言うなよ」

「嫌だよ。…なぁ、父さんとかに相談しよう?ほら、警察とかさ!」

「自分の身は自分で護る。家族を巻き込むのは嫌だ。それに、警察は事件が起きないと動かない」





俺の言葉に、直哉は納得いかないといった様子で「…バカ兄貴。自分の心配しろよ」と言った。でもさ、俺はやっぱり家族や友達を巻き込む方が嫌なんだ。

俺は、大丈夫。そう自分に言い聞かせるしかないんだ。



「そんなに心配すんな。大丈夫だって言ってるだろ?」

「…心配するに決まってんだろ!!智兄ちゃんも椋兄ちゃんも薔薇を置かれてたって、俺知ってんだぞ!!」

「…直哉、俺は生きる。絶対に死なない」

「そんなの…、実際は分からないじゃんか」

「あぁ、分からない。でも、悩んだって仕方ねぇだろ?」

「仕方ないって、そんな簡単に…「悪い、俺もう寝るわ」」

「おい、兄貴!兄貴!!」





直哉…、心配かけてゴメン。



俺は、直哉の声を無視して眠りについた。

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