《MUMEI》
・・・・
 向かってくるエドを前にしても立ち尽くすだけで、仮面の男は一向に動こうとはしない。だが周囲に変化が起こる。
 仮面の男の周りに陽炎が出来たかと思えば、そこには数体の妖魔が姿を現わしていた。妖魔たちを認め、それでもエドは足を緩めず接近する。
 妖魔の召喚、あれがさっきの奴の正体か。
 「なめられたもんだなっ」
 妖魔たちの長く伸びた腕がエドを捉えようと殺到する、だがエドは素早い身のこなしですべてを躱し、刃を振り抜いていく。
 血潮を噴き呆気なく妖魔たちが倒れ、仮面の男はエドの間合いに入った。
 このままエドが攻撃動作に入れば、仮面の男は逃げ遅れてしまう。それなのに仮面の男は動こうとはしないのだ。
 そこまで死にたいのなら、望みどおり逝かせてやるよ。
 身を屈めたエドは、未練なく仮面の男の脇腹を切り裂こうとした。

 ――いや、やめてください。わ・・・わたしじゃありません・・・・わたしはなにも――。

 彼女らの記憶の断片が、映像が脳内を駆け巡る。
 恐怖、未練、痛み、憎しみ、恨み、そして呪い。
 とめどもなく流れこみ、叩きこまれ、それでも押しこまれ、数百人の呪いがエドの身体を埋め尽くした。
 一瞬のうちに数百人の痛みを追体験し、自分を見失いそうになる。

 俺は、誰だ。誰が、俺だ。
 痛い、身体が・・心が・・・・・痛む。
 違う、これは俺の痛みじゃない、俺は悼んでいるだけだ。

 強靭な精神力でなんとか自己の崩壊を食い止めたものの、エドの身心は摩耗しもう力は残されていない。
 「くっ・・・くそ」
 膝から崩れ落ち、白刃の剣がエドの手から虚しくこぼれ落ちた。

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