《MUMEI》

修平さんと俺の間に七生も割り込んで来ようとしたが、始まる寸前にやってきたので、係の人にその場の空いているカップに誘導させられていた。
七生が遅れたのは、瞳子さんがヒールを履いていたからだ。


「……二郎君、有難うね?凄くいい思い出だ。」

修平さんが、父親の笑顔をした。
七生が愛されてて嬉しい。


「七生ってば最初、凄く不安がってたんですよ……でも修平さんだから、七生は北条の家に行ったんです。俺は、修平さんが七生のお父さんで良かったって思います。」

七生が幸せになれる世界が拓けて良かった。


「じろーくん……、じ……じろーくん!」

修平さんが勢い余って、俺に飛び込んで頬擦りした。
こういうとこ、似てる……

「修平さん、苦しい……。」

コーヒーカップが回る中、頭も少し回る感覚がする。


「ごめん!……つい、モチモチしてたから。」


「モチモチ。」

修平さんが俺の頬を触る。


「ひゃめてくだひゃい……」


「……二郎君、ちょっと元気出た?」


体が強張る。
遊んでたのに、観察されてた……!


「元気ない訳じゃ無いですよ。」


「七生を奪ったこと、恨んでない?私を殺したいんじゃない?」

指摘され、見つめられると、逃げられないと思った。


「そんな怖い考えしてませんよ。七生が……遠く感じてるだけです、でも、いつかはやってくることだったんです。」

仕方ないことだ、いつも、一緒で以心伝心なんて出来ないもの。


「後悔しないかい?私は返さないよ?」

確認された、俺は頷くことしか出来なかった。

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