《MUMEI》
・・・・
 「そんなに怖い顔をしなくてもいいんじゃないんですか、せっかくの綺麗な顔が台無しですよ」
 その不気味な姿からは想像もつかない、吹き抜ける風のように澄みきった、若い女性の声が聞こえてくる。
 訝しげな目でカイルは黒い濃霧に包まれた敵を注視して、無駄だと分かっていても油断なく長剣を構えてしまう。
 「ふざけたことを、何のつもりだ」
 「やっぱり、声だけではわかっていただけませんか」
 残念そうな声色と言葉。それから黒い濃霧が徐々に薄くなっていく。
 敵がどういった目論見で正体を現そうとしているのか、カイルでもまったくわからなかった。
 黒い濃霧が薄まり、浮かび上がったのは黒い濃霧を被っていた時よりもひと回りふた回り小さなシルエット。やはり女性のようだ。
 そして霧が晴れ、現われたのは純白のドレスを纏う、透き通るような金色の髪をした美少女だった。綺麗な碧色の瞳は宝石のようで、人を殺したことのないような無垢な光を放っている。
 どこか見覚えのある顔立ちにカイルは愕然とした。

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