《MUMEI》

かなたとじゃれていた武君が急にその男を見た途端、表情を変えてその男を睨みつけていたので聞いてみたのだがどうやら知り合いだったらしい。

「でもお前、ウチの生徒じゃねぇだろ」
「そうだけどな、まぁ…色々と仲良くさせてもらってるんでね…」
「そういう事、…行こう桃郷」

その優男はそう言うと武君の知り合いの大男を従えて、その場から立ち去ろうとしていた。

「じゃあねかなたくん、楽しかったよ♪」
「……ぅん」

最後にかなたの方に振り返ってそう言うと、かなたは武君の浴衣の裾を握りしめながら歯切れの悪い返事を返していた。

「ちょっと待ってよ!」

突然、俺の隣で今まで我慢していたアキラが堰を切ったように声を上げた。

「アキラ…」

止めようとした俺の手を振り払い、その優男の前までズンズンと進んでいくと真っ正面に向き合った。

「そういう…立場の弱い子を上手く丸め込むような人が、僕は一番気にくわないんだ!」

アキラはそれだけ言い放つと、踵を返して向こうに駆けだして行ってしまった。

「アキラ!」

俺はアキラを追いかけようと思ったが、子供達の方も心配だったので振り返ると、かなたの肩を抱いた武君が頼もしく笑っていた。

「大丈夫っすよ、こっちは任せて下さい」
「済まないな、じゃ…」

それだけ言って、双子と顔を見合わせると大丈夫そうだったので安心してアキラの後を追って行った。


境内を抜けてアキラの走って行った方向を探していると、時間も経ち人も疎らになった祭りの後の外灯が途切れた土手の辺りで一人で佇んでいる人を見つけた。

様子を伺いながらゆっくりと近づいて行くと、暗めの短い髪に、あの見覚えのある浴衣だったのでアキラだと分かった。

「アキラ…」

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