《MUMEI》
ずっと……
.


数日前から、身体に、痛みがあった。



そのことをお母さんに伝えると、すぐに病院へ連れていかれた。


退屈な検査を終えると、担当医が、言った。


「著しく、病状が悪化しています」


話を聞きながら、わたしは瞬いた。





…………そんなことは、わかってるよ。



今さら、言われなくても。



みんなだって、わかっていたのでしょう?



わたしに残された時間が、あと僅かだということ。





お母さんは涙目になりながら、わたしに残された時間について担当医に尋ねたが、返された言葉は、「本人の気の持ち様で、変わってきますので……」と曖昧に濁しただけだった。


結局、痛み止めを処方されただけで、入院にはならなかった。

入院しても、もう意味がないから、とのことだった。


わたしはお母さんが運転する車の中で、処方箋の紙袋を見つめていた。



痛み止めは、医療系麻薬の一種だ。



わたしと同じ病気のひとに、一般的に処方される薬。


それを見つめながら、ぽつんと呟いた。


「わたしも、いよいよヤク浸けか」


お母さんはなにも答えなかった。わたしの言葉が聞こえなかったように振る舞い、まっすぐ前だけを見て、ハンドルを握っていた。

特に返事をして欲しかったわけじゃなかったので、わたしは袋から目を逸らし、車の窓の外を眺めた。

夕暮れ前の街中には、たくさんのひとがごった返している。

その中に、学校の制服を着た若者たちの姿もあった。

それを眺めながら、夏休みが明け、新学期が始まったのだ、と、ふと思い付く。

学生たちは、楽しそうにほほ笑みながら、歩道を歩いている。

まるで、違う世界のひとみたいだ。



そんなことを考えているわたしの視界に、


うつった、人影。



わたしは、目を見張る。



明るい茶髪。グレーのパンツをルーズに着こなしたひと。



−−−将太だった。



そして、その隣を歩くのは………。



肩までの長さの黒髪。きちんと着こなした制服。かわいらしい笑顔を浮かべた、その、女の子は。



紛れも無く、あの公園で話しかけてきた子。



彼女は将太の顔を見上げながら、楽しそうに笑い、なにかを話している。


その全身から、幸せというオーラが放たれていて、


彼らの関係性の深さを、思わせるものがあった。





…………例えば、



もし、わたしが『普通』のひとで、



元気に外に出掛けたり、遊んだり出来たとしたら、



彼の隣をああやって、歩いていたのは、



もしかしたら…………。





そこまで考えて、やめた。


だって、有り得ないから。


そもそも、わたしと彼では歳が違うし、


今まで接点もなかったんだから、


もし、わたしが『普通』だったとしても、


それは、有り得ない。




わたしは彼らから目を逸らした。

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