《MUMEI》
・・・・
 「ま・・まさか」
 「どうしたのですか兄さま。成長したからって、愛しい妹の顔を忘れたなんて言ったりしませんよね」
 その美少女は愛らしく微笑う。
 予期せぬ事態が起きてしまい、カイルは虚脱感に襲われた。
 「――エリザなのか」
 魂を吸い取られたような声で目の前の美少女を見る。彼女の髪はカイルの大切な妹、エリザの特徴的な色と酷似していた。金色でも王族のそれとは違い、儚く煌めき、薄い金色。
 何より、過去カイルが思い描いた妹の成長像そのものだった。
 冷徹であり続けたカイルの心が、感情に流される。愛は盲目である、幾度となく思い描いてきた妹の姿が目の前にある以上、彼女を認めるほかなかった。
 「お久しぶりです、兄さま。お変わりないようでなによりです」
 純白のドレスのスカートを摘み、お辞儀をひとつ。エリザの振る舞いは淑女そのもので、一挙一動に惹きつけられそうになる。
 「どうしてお前がここにいる。お前はあの儀式に巻き込まれ死んだとばかり思っていた」
 「そのとおりです兄さま、わたくしはあの儀式で滝壷に突き落とされました。
 だけど、奇跡が起きました。声が聴こえてきたの・・・わたくしは契約を結び、力を得た」
 満足気に目を細め、エリザは両手を広げた。
 「すごいでしょう兄さま、もうあの頃のわたくしではありません。こんなに強くなったんですもの、兄さまに頼らずともこうして立っていられます」
 妹の生存を知らされ、嬉しいはずなのだがカイルは素直に喜べない。むしろ悲しみのほうが勝っている。

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