《MUMEI》 それぞれの想い. 薄暗い公園のベンチで、 俺と百々子さんは隣同士に腰掛けていた。 二人の間には、微妙な距離感があって、 それが、少し、悲しかった。 しばらくの沈黙のあと、 彼女は、「びっくりした」と言った。 「こんなトコに座ってるんだもん。びっくりしたよ」 そして、また沈黙。 俺は瞬いて、広場にいるヒューを見つめた。 ヒューは地面の臭いを嗅ぎながら、茂みの方へと歩いていく。 ヒューから目を離さず、俺は百々子さんに言った。 「……百々子さんに会えなかった間、辛かった。どうにかなりそうだった」 百々子さんは、俺の方を見た。俺も彼女に目を向ける。 そして、つづけた。 「百々子さんは…?」 俺の頼りない声に、彼女はゆっくり瞬いた。 「……わたし?」 掠れた声だった。 心もとない響きをはらんだ、その声に、俺の胸が軋む。 俺は彼女の目を覗き込んで、もう一度、尋ねた。 「百々子さんは、どうだった?俺と会わなかった間、どんな気持ちだった?」 この問い掛けは、無駄なことだとわかってはいた。 そんなこと尋ねても、無意味だと。 彼女はもう一度瞬き、 そして答えた。 「わたしも、寂しかった……辛かったよ」 俺は驚いた。 まさか、と思った。 そんな返事をしてくるなんて、全然想像もしていなかったから。 俺が言葉を探している間に、 彼女は俯いて、フッと儚く笑った。 「ホントは、ずっと会いたかった。もっと、もっと一緒にいたかった……もっと仲良くなりたかったのにって、ずっと考えてた」 信じられない気持ちでいっぱいだった。 俺が、だったらなんで…と言いかけると、 突然、彼女が顔をあげて、俺を見た。 あの、無機質な瞳だった。 俺は言葉を飲み込む。 彼女は、俺を冷めた目で見つめて、 「でも」と、言い放った。 「わたしはキミのこと、好きにならないよ。絶対」 秋の夜風が、俺たちの間を吹き抜けた。 . 前へ |次へ |
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