《MUMEI》
・・・・
 「やはり、精霊と契約を結んだのか。
 だが、どうしてお前が人殺しをした。生き延びたのなら、お前はそのままどこかで慎ましく生きていけばよかった。殺しは、お前がすることじゃない」
 嘘偽りない感情をぶつけ、自身の願ってきたことを妹であるエリザに投げる。それが自分の我がままだとわかっていても、彼は口にせずにはいられなかった。
 エリザは静かに首を振り、その豊かな胸に手を当てる。
 「わたくしには、やり遂げなくてはいけない使命があるの。それはわたくしたちみんなの想いが同じだから」
 「・・・みんなの想い」
 「そうですわ。わたくしは滝で多くの女性たちの声を聞きました。みんな恨みを晴らしたいと、仇を討って欲しいとおっしゃったの。わたくしのなかには、みんなの意思がある」
 エリザと言うひとつの肉体に、乙女たちの恨み、辛み、憎しみが混入し、共有していた。自己が確立された人間ならば、それを拒むことも出来たかも知れない、しかし幼く、それもカイルに頼りきりだった彼女には乙女たちに打ち勝つことは出来なかった。
 意思というものを持っていなかったエリザは皮肉にも彼女たちとひとつになったことで、初めて己の意思が芽生えたのである。
 

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