《MUMEI》
景色を見てる
「津山さん」

羽田が声を掛けると、凜はゆっくり振り向いた。
その顔に、さっきまでの微笑みはない。

「なんですか?」

授業をサボっておいて、『なんですか』はないだろう。
心の中ではそう思いつつめ、やはり口に出すことはできない。

「ここで、何してるの?」

「見てるんです」

彼女は答える。

「何を?」

「……景色」

「…………そう」

二人の間を風が吹き抜けた。
長い沈黙が続く。

「えっと、それで……その、教室戻らない?」

やっとその一言が言えた。
しかし、凜は首を振る。

「あたしが戻ると、みんな嫌がるから」

確かに。
いやいや、納得している場合ではない。

「さっきの子に聞いたんだけど、その……」

しまった。
なんて言っていいのかわからない。

「あたしの近くにいると、変なものが見える?」

凜は自ら、そう言った。

「それって、どういう意味なの?」

「どうって、そのままの意味です」

「……先生、わからないんだけど」

困ったようにそう言う羽田を凜は見つめた。

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