《MUMEI》 「この子を起こすの手伝ってくれてありがと、ドラーク君。……もう、いらないから」 人形にとらえられたままのドラークへ少女の嘲笑が向けられた 突然の事にドラークは成す術はなく 短い呻き声が聞こえたかと思えば、ドラークの首だけが音もなく落ちて行った 「何だよこれ……」 人形術に全てを委ねた者の末路 ソレを目の当たりにし、情けなく引き攣った様な声を出すサキへ 人形の手が何故か伸びてくる 「……イリア?」 触れてくる指先 触れた途端に 表情など無い筈のそれの内に、サキは妻の姿を見た 見えた彼女は、今にも泣いてしまいそうな脆い笑みで サキへと何かを訴える だが声は聞く事が出来ず、彼女の姿はすぐに消えてしまっていた 差し伸べた手が無意味に空気を攫むだけ 「……邪魔者は、皆消えたよ。これで、全部元通りだね」 少女の言葉が耳に障る 一体、何がどう元に戻ったというのか 不愉快なその言葉に サキはまた人形の方へと向いて直り 未だ血の滲む手の平でそれに触れた 「……お前にも、コウにもこれ以上傷付いて欲しくねぇから。許して、くれな」 詫びる言葉を吐きながら、術印を描いていく サキの血が触れた其処から、人形が段々と脆く砕けていって 塵へと化していった 「……今でも、ずっと愛してる」 サキの優しすぎる声 言い終わると同時に全てが崩れ、そして消えていった 「オ、オジさん?一体何したの?消えちゃった……。居なくなっちゃったよ」 何もなくなってしまった其処に 少女は落胆し床へと座り込む 「ね、どうして壊すの?ここには、全部あるのに。オジさんの大切なもの全部あったのに!」 訴えに怒鳴る少女 だがサキは少女に何を返す事もしなかった 大切なもの、だから壊した 造られた命は唯苦しむだけで ソレは多分、誰も望んでなど居ない筈だから 望まぬ形でここに在るより、それならばといっそと思い自らの手で 「……お前も、そうか?コウ」 血塗れのサキの手がコウの頬へと触れた 赤い筋がそこに残り、全身に激痛が走る 生きた人形の生成、禁忌を犯した者に残る後遺症だった 「頼りねぇ親父で、悪かった。お前、多分怒るんだろうな。(人を何だと思ってるんだ)って。文句なら後で全部聞いてやる。だから――」 戻って来てほしい。せめてこの存在だけでも もう二度と、自身が同じ過ちを繰り返したりしない様に 負の感情などに捕らわれたりしない様近くで見張っていて欲しい、と それだけを切に願った コウを唐突に引きよせ抱くと、未だ出血の止まらない右手でその首筋にまた印を描く 印が発光を始め、その途端にその身体の自由が利かなくなり膝が折れた 突然の事に、少女は困惑するばかりだ 「何……?これ、何が起こったの?」 突如身に起こった異変 蹲り呻くばかりの少女を、サキは唯々見下すばかりだ 「オ、オジさん……、ど、どして……」 問うてくる声には返さず、眺め見るだけ 少女の顔が青白く変化していく様に、サキはやはり何の表情も向ける事はせず 切り裂かれたままの内腿へと徐に指を這わせた 「悪ィが、返して貰うぞ」 剥き出しの肉に直に触れ、また描く印 器と魂を分離させる、拒絶印 描いた次の瞬間、コウとは別の耳に喧しい女の叫ぶ声が響き 崩れる様に落ちるコウの身体を抱き止めた 『……私、完璧にお兄ちゃんの身体奪えたと思った。でも(あの人)が邪魔したから……』 少女の消え入る様な声が聞こえ、そちらへと向いて直れば 随分と不安定な姿をした少女が居た縋る様な眼で、サキへと手を伸ばす 『オジさん。私、私は、傍に居たかっただけ。あなたの傍に、だから……』 その手を取る事はやはりせず少女の姿が完璧に消えて失せるまで、サキは微動だにしなかった 「……お前、結局何だったんだよ」 何も解らず仕舞のまま だが、それを知る術など無いのだと溜息を深くつくと サキは抱いていたコウの身体をゆっくりと横たえた 傷つき過ぎて感覚のなくなってしまった右手でまた新しく印を刻み込む 戻って来てほしい、唯その一心で 身体の血液が一気に体外へと流れ出て行き 以前と同じ様にその結果を見届ける事が出来ないまま、サキは意識を失っていった…… 前へ |次へ |
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