《MUMEI》

でも、これだけは譲れない。

まだ、好きだから。

あいつがすげぇ好きで、忘れられないから。

「兄貴、わりぃ。」

瞳を伏せる俺の頭を、兄貴がグシャっと掻き乱す。

「里空(りく)がな、心配してんの。お前のこと。」

それだけ言って、兄貴は立ち上がり部屋を出ていった。


部屋の隅にある、使った形跡のない机。
そこの棚に、裏返しに置いてある写真立てを俺はひっくり返す。


そこには、まだ真新しい学ランとセーラーに身を包んだ五人の男女の姿。
その中の一人は俺だ。
もう十年近く前の写真。

懐かしい俺の、一番大切な記憶。

今、あいつは何してんのかな──……

ふと、そんな事が頭を過って俺は小さく首を振る。


と、そのときだった。


バタバタばたばた……

階段を慌ただしく駆け上がる音がしたかと思えば。

ばんっ!!

「お兄ちゃんっ!里空くんが今来てて……」

仁湖が扉を勢いよく開け放った。

俺は、扉をノックも無しに開け放った事を注意しようと後ろを振り向いたのに、仁湖の必死な表情がただ事じゃないことを俺に伝えてきて、悪態を喉の奥に飲み込んだ。

「……何?里空くんが来たことがそんなに一大事?」
正かな…と思ってはいたけど、他に言葉が思いつかなかった。

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