《MUMEI》
・・・・
 エリザの言葉を聞き、カイルは自分の浅はかさを知らされ苦渋を味わわされた。エリザは妖魔を使役し、後方支援に回る典型的な術者タイプだと言うことはエドとの戦闘でわかっていたこと。遠距離召喚と言う離れ技も考慮しておくべきだった。
 屋敷内でのあの戦いで暗闇、加え無音の状況を作り出したのは、自分たちをより確実に仕留めるために作られたものだとカイルたちは踏んでいた。まず自分たちと戦うことを大前提とした考えだ。
 しかしそれはエリザが仕掛けた巧妙な罠だった。彼女は目標を殺すことを大前提にしている、彼らの相手をするつもりはもともと微塵もなかった。彼女は召喚術を用いたと言う事実を隠すため、あの状況を作っていた。そうしなければ二人のうちどちらかがその場に残り、ツヴィを殺す邪魔をされていたところだったのだ。
 「目の前に邪魔者が現れたんだ、なぜオレにもエドと同じ力を使わなかった」
 戦略で大敗を期され、兄は敵対者として尋ねる。すると妹は不思議そうな顔を一度見せ、すぐに綻ばせた。
 「わたくしが、兄さまにそのようなことをするとでも。兄さまに守られていたこと今でもしっかりと憶えています、恩を仇で返すようなこと、兄さまの妹であるわたくしがするわけないじゃないですか」
 そうしたことが当たり前であるかのように、敵対者へ微笑み返す。
 兄と妹、二人は血の繋がった家族。しかし騎士と殺人者。
 とるべき道は運命づけられている。
 それはカイルも、エリザも承知していた。

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