《MUMEI》
本来の目的
「さて、と」


携帯をしまった志貴は、白いワイシャツの胸ポケットから、赤いリボンを取り出した。


(そ、そうだった)


俺も慌てて青いリボンを取り出そうとしたが








(無い)


ワイシャツの胸ポケットにも、ズボンのポケットにも


どこにも、青いリボンは見当たらなかった。


(何処かで落としたのかも…)


その可能性はあまりに高く


落とした場所の心当たりはあまりにも多かった。


(必死だったからな)


「祐也? どうしたの?」

「…」


(正直に言った方がいいよな)


「ごめん、落とした」


俺の言葉に、志貴は目を見開いた。


「…ごめん」


もう一度言うと、志貴は俺に背を向けた。


(やっぱり、怒ってるのかな?)


そのまま志貴は、鏡月が設置した中庭の花壇の手入れ専用用具入れの方に歩き始めた。


「…志貴?」


(何してるんだ?)


用具入れから志貴が何かを取り出している音はしたが


何をしているのかは、俺からは見えなかった。


「よし」


振り返った志貴の手には


半分に切られた赤いリボンがあった。

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