《MUMEI》 決着. 約束の土曜日まで、まだ日があった。 俺は帰宅途中、学校近くにあるペットショップに立ち寄った。 小綺麗な店内には、たくさんのショーケースには、まだ小さな子犬が。 そして、犬用の雑貨が、ところ狭しと並べられていた。 俺は脇目もふらず、雑貨売り場へ向かう。 犬のおやつ、ドッグフード、首輪、リード、ネームプレート……… そして、 犬用の、おもちゃ。 ヒューと遊ぶときはいつも、百々子さんが用意してくれたボールか、公園に落ちてある野球のボールを使っていた。 泥まみれで、ボロボロのボールを新調しようと思ったのだ。 俺は、棚に手を伸ばし、たくさんのおもちゃの中から、ゴム製の、赤い巻き貝状のものを手に取る。 しっとりとしたラバーの感触が、手に伝わった。 説明書によれば、このおもちゃは投げるとどっちの方向へ転がるのか、わからないそうだ。 ヒューの喜ぶ顔が目に浮かぶ。 俺は値段を見た。結構な値段だった。 大人だったら、たいしたことない金額なのだろうが、バイトもしていない俺にとっては、痛い出費だ。 しばらく悩んでいたが、俺は意を決して、そのおもちゃを持ち、レジへ向かった。 袋をぶら下げ、店を出ると、 なぜか、のぞみと鉢合わせした。 「よっ!」 のぞみは愛嬌たっぷりに挨拶してくる。俺は眉をひそめた。 「なに、お前、なんでこんなところにいるの?」 尋ねると、のぞみはちょうど通り掛かったのだと説明したが、俺は釈然としなかった。 最近、こういうことが多いのだ。 登下校や、休み時間など、俺が行く先々に、必ずと言っていいほどの確率でのぞみに出くわすことが続いた。 まるで、のぞみが、俺のあとをついて回っているように。 もちろん、そんなことをされて、いい気はしない。 俺はのぞみの顔を見てため息をついた。 「いい加減にしてくれよ。いつもいつも追いかけ回して……なにがしたいんだよ、お前は」 うんざりして尋ねると、のぞみは慌てて答えた。 「偶然だよ、偶然!!」 「偶然なわけないだろ。お前の家、こっちの方向じゃないじゃん」 「今日は、なんとなくこっちから帰ろうと思ったの!そしたら、中原がいたからさ。わたしもビックリしたんだから!」 そうやって言い張るものだから、俺も面倒になり、あっそう…と素っ気なく相槌を打った。 . 前へ |次へ |
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