《MUMEI》 . 俺が納得したと思ったのか、のぞみは少しホッとしたような顔をして、それから俺が持っている店の袋を覗き込む。 「ペットショップで、なに買ったの?」 俺は冷たく、なんでもいいだろ、と答えて歩き始めた。しかし、のぞみは引き下がらず、俺の隣に並んで歩き出す。 「中原って、動物飼ってるの?」 さらに問い掛けてきたが、俺は取り合わず、お前に関係ない、とばっさり切り捨てた。 そこでようやくのぞみは黙り込み、足を止めた。俺は数歩進んで立ち止まり、それから振り返る。 のぞみは俯いていた。 その姿が小さく、弱々しく見えた。 「どうしたんだよ?」 面倒臭かったが、のぞみに声をかけると、彼女はぽつんと呟いた。 「最近、冷たい……」 のぞみの台詞に俺は眉をひそめる。 「なにが?」 「中原が」 俺はのぞみに聞こえるように、ため息をついた。それから答える。 「そんなことないだろ?」 俺自身、とりわけのぞみに対して、態度を変えたつもりはない。もっとも、彼女が最近になって、やたら付き纏ってくるから、それを欝陶しく思うことはあるけれど。 俺の言葉を聞いて、 のぞみは勢いよく顔をあげた。 その瞳に、涙がいっぱい湛えられているのを目の当たりにして、 俺は言葉を無くす。 のぞみは真っ赤な目で、俺を睨みつけながら、言った。 「冷たいよ!前と、全然違うもんッ!!前はもっと、優しかったし、笑ってくれたじゃん!!」 強張った口調だった。 俺はなにも答えず、ただ瞬く。 のぞみはゆっくり顔を俯かせて、呻くようにつづけた。 「中原、変わったよ……」 …………『変わった』? 俺が? 違うだろ。 むしろ、変わったのは−−−。 . 前へ |次へ |
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