《MUMEI》 . 俺はもう一度瞬き、そして冷静な声で言った。 「俺は、変わってないよ。もとからこんなだし、これからもそうだ」 のぞみはゆっくり顔をあげた。涙がこぼれ落ちていた。 その泣き顔を見据え、つづける。 「お前が、俺のこと変わったって思うなら、それは完全な勘違いだよ」 のぞみは目を見開いた。 それを確認して、俺は言う。 「変わったのは、のぞみの方だ」 …………のぞみは。 社交的で、明るくて、裏表がなくて、 誰よりも眩しく見えた。 でも、 今の、のぞみには、その眩しさを感じない。 のぞみはなにも答えなかった。俺はゆっくり踵を返して、歩きはじめた。 その背中に、 のぞみが言葉を投げかける。 「じゃあ、その原因は、中原だよ」 俺は足を止めた。止めるつもりはなかったのに、足が動かなくなった。 俺はゆっくり振り返る。 のぞみは、真剣な眼差しを俺に向けていた。 俺は、嫌な予感がした。 …………やめろ。 絶対に、言うな。 しかし、俺の願いも虚しく、 そうやって少し、見つめ合ってから、 彼女は言った。 「好きだよ……中原のこと」 前に電話で、登に怒鳴られてから、 予感はあった。 いつか、のぞみが、 こうやって、想いをぶつけてくるだろうことは。 でも、 俺は−−−−。 「悪いけど、そーいうふうには見られない」 俺が平然と答えると、のぞみは泣き出した。子供みたいに、大声でわんわん泣くものだから、周りのひとたちにジロジロ視線を投げかけられた。 泣きじゃくる彼女の姿を見つめながら、 それでも、俺は、 百々子さんの姿を、思い描いていた。 . 前へ |次へ |
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