《MUMEI》

 蛍光灯の強い光に眼の奥を刺激され、サキは眼を覚ました
重い瞼をゆるり開くと
其処にはライラの泣き崩れた顔が10年前と同じ様にあって
その不細工さに、つい笑う声が漏れた
「な、何で笑うんですか、義兄さん!私がどれだけ心配したと……!」
涙声で必死に言い募るライラの頭に、サキは徐に手を伸ばす
ゆっくりと撫でてやり、そして彼女の頬を伝う涙を指先で掬ってやった
「また、心配掛けたな。悪かった」
心からの謝罪
ライラは唯首を横に振るばかりで
言葉が声になって出てこなかった
「……義兄さん、もう終わったんですよ。もう……」
「ライラ……」
「コウ君も無事です。ちゃんと、ここに居ますから」
ライラが視線を移したその先には
穏やかな寝息を立て眠るコウの姿があった
時折寝返りを打ちながら
「……所長、そんな事したら、ライラに怒られ……」
寝言すら呟いた
そこで漸く、全てが元に戻ったのだと実感する事が出来た
安堵に肩を撫で下すと、不意にライラの腕を引きよせその身を抱いていた
「……全部、済んだか」
確認するかの様に呟いたその声は情けなく震えていて
そんなサキを、ライラは抱いて返す
「そうですよ。全部終わりました。今回の件を受け軍隊も解体されるそうですし。もう終わったんです」
「そか」
サキの短い返事にライラは微かに肩を揺らし
茶を入れてくる、湯呑を持って病室を後に
その背を見送り、サキはベッドを降りるとコウの傍らへ
長い前髪を掻き上げてやり、額へと触れるだけのキスを落とした
「これで、良かったんだよな。イリア……」
コウの布団へと潜り込み、ゆるりと眠りに落ちながら愛する人の名を呼ぶ
それだけで胸の内がほっと安らぎ
全ての重圧から解放された気がした
何を掴むわけでもなく伸ばした手
その先に触れるのは暖かな日差し
温もりに包まれ、サキもまた穏やかな寝息を立て始めたのだった……

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