《MUMEI》

 システム・バロック
ソレは、我儘な子供が必死に望んだ全てが造りモノの世界
一人きりになり
だがそれでも、只管動いてなどくれない(人形)を造り続けている
「……どして、私一人ぼっちなんだろ。私、唯欲しかっただけだもん。私が私で居られる幸せな世界が……」
「自分だけが幸せで居られる世界なんて、きっとそんなのつまらないよ」
誰も居ない筈の其処に突然女性の声が聞こえ、そちらへと振りかえった
「みんなが一緒に幸せになれる。そんな世界の方が楽しいと私は思うな」
少女へと笑いかけながら自身の考えを語り
「本当に?例えその瞬間に自分が居られなくても、あなたそう思えるの?」
少女の問い掛けに、女性は笑みを絶やさず頷いた
「大切な人達が生きている世界だもの。出来る事なら、もう苦しむ事無く幸せになって欲しいって思う。おかしいかな?」
「……よく、解らない」
「解るよ、あなたなら。……だって、あなたは、私だから」
ふわり優しい腕が少女を包んだ
「あなたは私で、私はあなた。だからきっと解る筈だよ」
「わ、解らないよ!解りたくない!だって、私は私だもん。あなたじゃない!」
懸命に首を横に振り否定すれば
だが女性も首を横に振り、互いが互いを否定する
「あなたは、私だよ。10年前、私の心から生まれた、私の欠片」
常に付き纏う10年前
だが少女は何度も首を横にふり、認めないと拒絶する
自分は自分として此処に居るのだ、と
「……私ね、悔しかったの。あの時、どうして私が死なないといけないのかって。沢山考えて、大切なあの人・あの子とどうして引き離されないといけないのかって」
穏やかな声で、女性は少女に言って聞かすかの様に話し始め
「だけど、本当に悔しいって、そう思ったら何か心に穴が開いた様な気がしたの。……悔しいって気持ちが、一人歩きしちゃったんだね。ごめんね」
謝りながら少女の身を抱いてやった
触れてくる温もりに戸惑いながら
「ち、違うもん。私、あなたなんかじゃない。私、私は……」
どうしても認められないと言い募る少女へ
女性は更に首を横へと振って見せる
「あなたは、私だよ。だから(彼)に惹かれた」
「ち、違うもん。あの人は、オジさんは……」
「傍に居て欲しかったんだよね。私もあの人の、サキの傍に居たかった……!」
女性が、イリアが泣き崩れる
傍に居たい
唯それだけを願い、だがその想いが大切なモノを傷つけてしまった
ソレが何より辛くて
何度も謝罪の言葉を呟いた
「ごめん、なさい。私は今でも、あなたの事を愛しています。愛して、いますから……」
届けたい、届かない想い
益々涙を濃くするイリアの頭を、少女は無意識に撫でていた
そして気付く。自分も涙を流している事に
「どして私、泣いているの……?」
次々と溢れてくる涙に驚いて
その涙を、イリアが優しく拭っていく
「もう戻ってきて、私の中に。そして一緒に待っていよう。全ての傷が癒えるまで。ね」
子供をあやすかの様なその仕草に
少女は何を言う事も出来なかった
始めて向けられた暖かな感情に、唯戸惑うしかない
「私、あなたの処に居てもいいの?あんなに悪いこと、したのに……」
「だって。そうだったとしてもあなたは私だもん。掛けがえのない、私の一部なんだから……」
だから戻ってきて
イリアの柔らかな声を腕の中で聞き
小さく頷きゆっくりと眼を閉じると、その姿が段々と薄れ、イリアと重なった
「……お帰り。もう二度と一人で何所かに行ったりしちゃ駄目だよ」
自身を抱きしめ、そして微笑む
音を立てて崩れ始めた造り物の世界
その残骸に埋もれて行き、だが笑みを絶やす事は決してせずに
「もう平気だよ。私、もう大丈夫だから。だからサキ、幸せに……」
愛する男を想いながら
イリアの姿は降り積もっていく残骸の中へと消えていったのだった……

前へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫