《MUMEI》

だって、こんな仁湖は久しぶりに見る。

こんなに、動揺しまくった仁湖は。

「……っ!そんなことじゃなくて……」

さっき扉を開けた、壊されるんじゃないかっていうぐらいの勢いはどこに行ったんだ。
と問い質したくなるくらいに言い淀む仁湖が、意を決したように紡ぎ出した言葉は、余りにも衝撃的過ぎた。

「……ひぃちゃんの手紙を里空くんが持って来てくれたの。」

俺の思考が停止する。

「……は?なんで……?」

俺が一番最初に発した言葉。

「とにかく下、一緒に行こう?」

俺は、仁湖に言われるまま一階に降りて、リビングに入った。

「誕生日、おめでとう。志遠」

リビングの扉を開くと、柔らかく微笑み、俺を迎える大人な感じで、目鼻立ちの整った一人の男がいた。

「里空くん……陽和(ひより)からの手紙……って……?」

誕生日の祝福の言葉のお礼も言わず、

と言うか言う余裕もなく、俺は里空くんに尋ねる。

「あぁ、仁湖に聞いたんだ。うん。そう、手紙を届けに来たんだ。」

微笑む里空くんの瞳は切な気だ。

「とにかく座れよ。」

兄貴もそこにいて、俺を椅子に座るよう促し、それに従う。

仁湖が、俺を後ろから心配そうに見つめている。

「ほら、これだよ。」

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