《MUMEI》

俺が座るのを確認して、里空くんは自分のすぐ側に置いていた鞄から可愛らしい横長の封筒を取り出した。
俺は恐る恐るそれを手にとって、まじまじと眺める。


『伊山志遠様』

封筒の表側には綺麗に整った教科書の活字みたいな字で俺の名前が記されていた。

『一宮陽和』

そして裏側には、表側と同じ綺麗な文字であいつの、フルネームが書き記されている。

見間違える筈がない。それは見慣れた、懐かしいあいつの字だった。

「り……里空くん……これ……」

手が、声が情けなく震えてる。

「陽和の手紙だよ。君宛てのね。陽和から預かっていたんだ。君の二十歳の誕生日に渡して。って」

チラリと俺は視線を泳がせてからもう一度、里空くんの綺麗な形の瞳を見る。

彼は、優しく微笑むと小さく頷いた。

兄貴や仁湖は、黙って俺達の様子を見守っている。



カサ……ッ

きちんと糊付けされた封筒を破かないように、そっと、丁寧に封を切っていく。

中から取り出した便箋は封筒と同じ空のプリントを施されたものだった。

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