《MUMEI》 美澄の娘森に響き渡る悲しみの声。竜たちが、死んだ仲間の魂を送る為に吼えているのだ。この森、オーリレイル大森林には多くの竜種が住んでおり、その全てが強い絆で結ばれている。だからこうやって死を悼み魂を慰める。白竜のシセル。あのカイムというニンゲンに殺され、死体を持ち去られた竜だ。彼女はとても優しかった。優しすぎる程だった。動物たちを殺すのを嫌がって食事はほとんど木の実ばかりだったし、体の維持の為にどうしても必要な時は、泣いて謝りながら食らっていた。襲われた時だって、恐らく俺たちに迷惑はかけられない、と思って助けを呼ばなかったのだろう。 「馬鹿が……」 自分でも驚くくらいの掠れた声だった。これは叫びすぎて声が嗄れてしまったから、というだけではない。シセルは皆に好かれていた。自分だって同じだ。だから、悲しいのだ。苦しいのだ。悔しいのだ。彼女を失ったことが。彼女がいないことが。彼女を救えなかったことが。握り締めた手から滴り落ちる血に気付かないまま、俺はしばらく立ち尽くしていた。 『ラング、気持ちは分かるが、あまり自分を痛めつけるのはよくない。』不意に声がかかる。情けない話だが、それで漸く自分が血を流していることに気付いた。慌てて手当てをしようとするが、その前に暖かな光が手を包み込み、傷が癒えていった。これは光の竜の一族が持つ特殊能力で、軽い怪我なら大した負担も無く癒せる非常に便利な力だ。行使したのは、俺に声をかけた者――白竜のルシア。オーリレイルに住む竜たちのリーダー代わりにして、 『妹のことならそう気に病む必要は無い。お前一人の責任ではないのだから。』 シセルの、兄だ。 前へ |次へ |
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