《MUMEI》
保健室
俺は、倒れた拓磨を、荷物のように担いだ。


(さすがに、重いな)


俺より身長も体重もある拓磨を運ぶのは、苦労したが


途中、よろけながらも俺は何とか保健室の前にたどり着いた。


コンコンッ


ガラッ


「やっぱり来たわね」

「…志貴」

「とりあえず、拓磨を寝かせて」

「あぁ」


どうやら志貴は、拓磨がこうなる事がわかっていたらしい。


「授業は?」

「今、休み時間。あ、ちなみに、祐也が朝貧血起こして拓磨が付き添ってる事になってるからね」

「そっか」


(慣れたな、俺も)


普通なら驚く程の先回りと、手際の良さなのに


『志貴なら、普通』


そう思ってしまう俺がいた。


「拓磨は相変わらず物わかりが悪いわよね。

男女の友情だってありなのに」


唸る拓磨に冷えピタを力強く貼りながら、志貴は苦笑した。


(志貴、もしかして、拓磨の事…?)


志貴が拓磨に向けていた眼差しは


愛しさを含んでいるような気がした。


しかし、それは


数分後、拓磨が復活すると、あっさり消えた。


その時の志貴の眼差しは、いつも通り冷たく呆れが入ったものだった。

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