《MUMEI》

.


−−−約束の、土曜日。



数日まえから、すこぶる体調が悪かった。

全身が、痛くてしかたない。

処方された痛み止めも、もう、役に立たなかった。


それでも、


今日は、


行かなきゃならない。


わたしは力を振り絞って、ベッドから抜け出した。

一本歩くだけで、全身に痛みが走る。

壁に寄り掛かりながら、やっとのことで居間につく。

居間にいたお母さんは、わたしの様子がおかしいことに気づき、駆け寄ってきた。

お母さんの姿を見たわたしは、安心してしまったのか、そこで力が抜け、床に崩れ落ちる。


「百々子!!しっかりして!大丈夫!?」


悲痛な叫び声が、耳に響く。

わたしは死にそうな声で、平気…と呟き、床に両手をついて、立ち上がろうとするが、うまくいかない。

力が、入らない。

身体中が、痛い。

ヒューも、わたしの傍に近寄ってきた。不安げに、鼻を鳴らし、顔を近づけてくる。

お母さんは立ち上がり、居間へ駆け戻った。ガタガタと慌ただしくコードレスの受話器を手に持ち、再びわたしのところへ戻ってくる。


そして、泣きそうな声で、言うのだ。


「すぐに救急車、呼ぶから!頑張って!!」


救急車………?


冗談じゃ、ない。


わたしは力無く首を振り、消え入りそうな声で、やめて…と呟いた。しかしその声は、お母さんに届かなかったようで、彼女は震える手でボタンを押し、耳に受話器を押し当てていた。





…………いやだ。



いやだ、いやだ、いやだ………。



だって、わたしには、もう、時間がない。



急がなくちゃ…………。





わたしは足に力を込めて、ゆっくりと立ち上がった。両足が、自分のものじゃないみたいに感覚がない。それでも、立ち上がった。

壁づたいに、ゆっくりと歩き出す。

すぐ目の前にある、玄関へ向かって。

それを、背後から抱き留められた。


お母さんだった。


「やめて、無理しないで!!動いちゃダメよ!!」


涙声が、耳のすぐ傍で聞こえる。

わたしは、荒い息をしながら、お母さんの腕を振り払おうとして、

バランスを崩し、転がった。

床に肩を打ち付け、激しい痛みが走る。

痛くて、動けなかった。

声も、出ない。



.

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫