《MUMEI》 . そこでもがいていると、ちょうど電話が繋がったようで、お母さんが半狂乱で叫ぶように言う。 「もしもし!!急いで来て下さい!!娘が、娘が………はい、……はい!違います、病気で………そうです!!だから、はやく………」 だんだん、お母さんの声が遠退いていく。 …………はやく。 お母さんの台詞を、繰り返した。 はやく、はやく………。 行かなきゃ、いけないの。 わたしを待ってるひとが、いるの。 だから、お願い。 はやく……………。 ふいに、腕に柔らかな暖かいモノが、触れた。 霞む視界の中、わたしは見上げる。 ヒューが、すぐ傍にいた。 悲しそうな目をして、わたしを見つめるヒューの後ろに、 見えたもの。 それは………………………………………………………………………………………………………………。 頬を、暖かいものが、ゆっくりと伝う。 涙だった。 涙を流したまま、わたしは、ゆっくりほほ笑んだ。 …………ごめんね。 約束、守れない。 頑張ってみたけど、 もう、ダメみたいなんだ………。 必死に身体を動かし、手を伸ばす。 最期に視界にうつった、 愛しいひとの、その眩しい笑顔に向かって。 薄れゆく意識の中で、 わたしは目を閉じた。 …………最期に、 伝えたかった。 ずっと、言え無かった、想いを。 電話を終えたお母さんがわたしを呼ぶ声が聞こえ、 そこで、わたしの意識は、 ふっつりと、途絶えた。 . 前へ |次へ |
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