《MUMEI》

「……?」
「全部食えんのか?もう限界って顔してるぞ」
困った風に笑う篠原
ショコラも食べながら、分からないと首を横へ
それでも食べる事を止めようとしないショコラを見、掬ったパフェを篠原は一口
あまり得意ではない甘味が口に広がっていく
「恭也?」
「……お前、よくこんな甘ったるいもん食えるな」
「……甘い?恭弥は、甘いの嫌い?」
「得意じゃねぇな。お前も、食えないなら残していい。腹こわす」
「お腹って、壊れるの?」
篠原の言い回しに、だが分からず素直にその意味をとらえてしまったらしいショコラが首を傾げる
そのショコラの反応に篠原は苦笑を浮かべるばかりだ
だがやはり説明してやるのは面倒なのか
篠原は早々に席を立つと伝票を片手にレジへと歩いていく
さっさと歩いて行ってしまう篠原に、ショコラは慌ててスプーンを置くとその後を追った
慌て過ぎていたらしく、途中躓き
こける寸前に篠原の腕がショコラを支える
「そんな慌てんでも、置いてったりしねぇよ」
言い方も素気なく、だがどうしてか安堵出来る声
ショコラは篠原のシャツの袖をしっかりと握ると、はにかんだ笑みを浮かべて見せた
その笑い顔に篠原も返しながら、傍らで精算を済ませると外へ
気付けば時間も差し迫っており、篠原は早々に帰宅の途につく
帰路を走る車内
相も変わらず交わす言葉も少ない中
赤信号で都合よく止まった篠原の服の裾をショコラが引いた
何だ、と向き直ってやれば
唇に丸いチョコレートが押しつけられた
「ん?」
「恭也は、甘いの得意じゃない。けど、ショコラのチョコは甘くない。だから……」
甘い物の口直しに、と微笑むショコラ
その笑みに篠原も返してやりながら
ショコラからのチョコを口の中へ
微かな甘みすらない苦味の強いチョコ
篠原の好みの味だった
「……美味し?」
顔を覗き込んで訪ねてくるショコラへ
軽く頷いてやりながら頭を撫でてやった
茶色く、柔らかな髪
指先で梳いてやれば微かにチョコレートの香りで
「ありがとな」
短く礼を言ってやり、丁度信号も変わる
漸く自宅へと到着し、だが篠原は休む事もせず身支度を始めた
何処かへ行くのか、とのショコラへ
「仕事、行ってくる。俺が帰ってくるまで一人で待ってられるか?」
「一人で?」
途端に寂しげな顔
その顔を見せられてしまえば、そのまま置いて出る事など出来なくなり
どうしたものかと溜息を一つ付いた後
ショコラを預ける当てがどうやらあるのか
またショコラを連れ、篠原は家を後に
向かったのは某所にある篠原の知人が営む喫茶店
まだcloseの札が掛る其処を無遠慮に開け放つ
「邪魔するぞ」
謙虚さの欠片もなく中へと入れば
やはり開店準備の真っ最中らしく、店員が五人忙しく動いていた
篠原の来訪に、その内の一人が気付き一時的に手を止める
「……シノ、テメェ。今何時だと思ってんだよ」
田畑と同じ台詞を寄越され
悪い、と一言の詫びだけで篠原は本台へと入った
「申し訳ないが、俺が仕事の間、こいつ預かって貰いたいんだが?」
傍らのショコラを指差しながら、次はそれなりに謙虚に頼めば
だが誰からの反応もなく暫く無言で
全員の視線がショコラへと向いた
「……シノ。お前、等々犯罪に走ったか?」
篠原とショコラを交互に見やり、相手は怪訝な顔と声で問う
余りな言い草に何かを反論しかけた篠原だったが、途中思い留まり
頼む、と短い一言で篠原は踵を返した
「……恭弥?」
出て行く篠原の服の裾をショコラは掴み
行ってしまうのか、と無言での訴え
それに後ろ髪を引かれない筈もなく、だが出勤時間が差し迫っているのも確か
ショコラの頭の上で手を軽く弾ませると、行ってくるとその場を後に
後に残されてしまった面々
寂し気に篠原が行ってしまった戸を眺め見るショコラに、どうしていいのか皆目見当がつかなかった
「皆、小さい子と遊んだ事とかないの?」
その内の一人が溜息混じりにぼやき、そしてショコラの傍へ
恐々見上げてくるショコラへ笑う声を向ける
「えっと……。名前、教えてくれるかな?俺は、北沢 薫」
「……名前?僕の?」
「そ。もし良かったら教えてくれるかな?」

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