《MUMEI》 あの日の真相. −−−時は流れて、 切なさをはらんだ、秋の気配は過ぎ去り、 いつの間にか、冬が訪れていた。 木枯らしの吹き荒れる、11月のある日。 俺は、久しぶりにあの公園へやって来た。 それは、百々子さんと約束した、あの日以来のことだった。 いつも腰掛けていたベンチに、俺はゆっくり腰を降ろす。 ウールのコートが、動きづらかった。 吐く息が、白く浮かび上がる。 空を見上げた。 どんよりとした、厚い雲に覆われた灰色の空。 それを見つめていると、胸が引き攣れるように痛んだ。 昨日、志望していたドッグトレーナーの専門学校から、内定通知が届いた。 推薦一本でそこの専門に絞って受験したら、思っていたより簡単に合格した。 いち早く、受験戦線から離脱した俺に、登はとても喜んでくれた。 「おめでとう!!のぞみも、喜んでたよ!!」 フッて以来、よそよそしい関係になってしまったのぞみだったが、それを境に最近は登といい感じになっているようだった。 なんとなく、ホッとする。 俺はグレーの空を眺めて、瞬いた。 百々子さんが、約束を破ってから、気まずくて、この公園に立ち寄ることをしていなかった。 でも、 どうしても伝えたいことが、あった。 進路のことも、そうだけど、 それよりも、 まず、会いたかった。 ここに来れば、会える。 そう、思って、今日はやって来たのだ。 俺はため息をつく。白い息が浮かんで消える。気温はずいぶんと下がってきていた。 指先が、かじかむ。だんだんと感覚が消えていく。 俺はゆっくり目を閉じた。 思い出すのは、 あの、夏の日。 初めて、百々子さんと出会ったときのこと。 彼女は、このベンチに座り、 広場で遊ぶヒューの姿を、ただ目で追っていた。 そのときの、壊れそうで、 消えてしまいそうな、姿に、 俺は、 一瞬で、 恋をしたのだ。 . 前へ |次へ |
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