《MUMEI》 . −−−そのとき。 背後に、視線を感じた。 俺は、一瞬、固まる。 予感が、あった。 そして、確信、していた。 恐る恐る、振り返る。 俺には、わかっていた。 振り返ると、そこには、 「ヒュー……?」 ヒューが、いた。 昔と変わらず、瞳をキラキラ輝かせ、尻尾を激しく左右に振る、ヒューの姿。 そして、 見知らぬ、中年の女のひと。 …………そう。 わかって、いたんだ。 百々子さんは、ここに、『来ない』ことは。 「こんにちは」 女のひとは、優しく言った。 どこかで聞いたような、声だった。 一瞬遅れて俺も、こんにちは、と挨拶をする。 彼女はふんわりほほ笑んだ。 その微笑が、『だれか』に似ていた。 「ヒューのこと、知ってるの?」 俺は素直に頷く。 「夏に、よくこの公園で、遊んでました」 そう答えると、彼女は顔を強張らせた。 それから、慎重な声で、繰り返す。 「夏、に?」 彼女はなにかを推し量るような目で俺を見つめたあと、 儚く、笑った。 「そう……そうだったの。あなたが……」 そこまで言って、口をつぐむ。 ベンチから立ち上がり、女のひとと向かい合うと、今度は、俺が言った。 「百々子さんの、お母さんですか?」 彼女の物腰や、仕種には、百々子さんを思わせるものがあった。 そして、なによりも、 その顔立ちが、 百々子さんのそれに、よく似ていた。 . 前へ |次へ |
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