《MUMEI》 . あのあと、どうやって家まで帰ったのか、覚えていない。気がついたら、自分の部屋のベッドで横になっていた。 覚えているのは、 百々子さんのお母さんから聞いた、話。 百々子さんは、数年前、4つの癌を発症し、気づいたときにはもう手遅れの状態で、手術も出来なかったそうだ。 長い入院生活を経て、今年の夏に自宅療養を始めたが、その頃には、もうずいぶんと病状が悪化していて、いつ倒れてもおかしくなかったという。 そして、彼女が倒れた日。 その日は、俺と約束していた、あの土曜日だったというのだ。 そんな話、なにも、知らなかった。 あの、日。 ひたすら、百々子さんを待っていた、あの約束の土曜日。 俺は、百々子さんに、完全にフラれたのだと思い込んでいた。 でも、あのとき、 彼女は、もしかしたら…………。 俺は身体を起こして、オーディオのスイッチを入れた。 喧しいロックが、部屋中に鳴り響く。 その騒音を聞きながら、俺はまたベッドに倒れ込んだ。 枕に顔を埋め、じっと身を強張らせていた。 …………百々子さん、 あの日、 約束した、あの土曜日、 君は、 なにを思っていた? 倒れる、その瞬間、 一時でも、 俺のことを、 考えて、くれていた? ねぇ、 答えてよ…………。 俺は、ロックの曲の中で、 大声をあげて、泣いた。 身体中の水分が無くなるのではないかと思うほど、 泣きつづけた。 . 前へ |次へ |
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