《MUMEI》
・・・・
 「突然のお別れからはや十年、お会いできる日は永久にないと思っていましたが―――こうして兄さまともう一度お話が出来たこと、とてもうれしかったです。
 わたくしは人殺し、兄さまはこの国を護る騎士さま・・・悲運にありますね、わたくしたち兄妹は。
 ですがぶつかる運命にあるのなら、わたくしは兄さまを越えて願いを叶えてみせます。例え兄さまを殺そうと、ようやく手にした意志なのだから」
 人形は心を知り、自由を手に入れた。そしてこれが選んだ道。
 もう手遅れなのだと言うことを、カイルは咀嚼して感じていた。
 敵である二人はこれ以上、近づくことはできない。兄妹であるはずなのに、愛しい妹の肌に触れる事すら許されない。
 絶対に縮まらない距離。
 兄であるのに、守ってあげられる唯一の存在であるのに。庇うことも彼はしてやれない。
 だから、ただひたすらに澄んだ碧色の瞳を見つめつづけた。
 「―――わたくしたちの想い出の、あの場所で待っていますわ。兄さま」
 言い残し、再び黒い濃霧がエリザを包み彼の目の前から消えさると、その漆黒の瞳は愁いを帯びていく。黒髪の騎士は虚空を見つめつづけた。
 焼きつけたエリザの姿を映し、最後の笑顔に言葉をかける。
 「せめて、オレがお前を・・・」
 兄妹の決別の時だった。

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