《MUMEI》 あれから. あれから、ずいぶん長い時間が過ぎた。 高校を卒業したあと、あっという間に専門学校を出て、 俺は夢だったドッグトレーナーとして、社会に出ていた。 理想と違い、悩むことも多いけれど、 それでも今、とても充実した毎日を送っている。 ◆◆◆◆◆◆ 「………と、いうわけなんで、わんちゃんが命令を聞いたら、ちゃーんと褒めてあげて下さい。全身で褒めるんです。いい子だね〜、って」 俺はモデル犬の頭をグシャグシャに撫でながら、数人の生徒さんたちに見本をみせる。 生徒さんたちは、俺のおどけた表情を見てクスクス笑った。 ひとしきり犬とじゃれたあと、俺は生徒さんたちに向かって言った。 「でも、甘やかすのはいけません。良いときは良い、悪いときは悪い。それをはっきりわからせてあげてください。ちゃんと、それに応えてくれますから」 俺の話を聞いた彼らは、「はぁい」と返事をした。 しつけ講師を初めて、もう2年が経つ。 地元のカルチャーセンターで、月に1回。 ゆっくりとしたペースだが、やり甲斐は感じる。 講習を終え、センターの外に出るとき、エントランスで後ろから呼び止められた。 振り返ると、 そこに、栞おばさんがいた。 車椅子をこぎ、笑顔で俺のところへやって来る。 「今日、講習だったの?終わったの?」 朗らかな問い掛けに、俺は頷いた。 「ついさっきね。おばさんも?」 おばさんは頷き、そして言った。 「帰るなら、家まで送ってあげるわよ」 思いがけない提案に、俺は、マジで!?とテンション高めにおばさんに詰め寄る。 「ラッキー!!最近、暑くてさ〜、ちょっと歩いただけで、汗だく」 うんざりした顔を浮かべてみせると、おばさんはおかしそうに笑った。 「ずいぶん夏らしくなってきたからねー」 そんな独り言を呟きながら、俺と並んでセンターを出る。 . 前へ |次へ |
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